センセイの白衣
悔しくて、あまりにも悔しくて。

教室に戻ってからも、ずっと唇を噛みしめていた。

友達に心配されるくらい。


もう、どうしようもなくて。

自分一人で抱えるには、担任の言葉はひどすぎて。

私は、掃除の後の時間を狙って、4階に行った。


川上先生に会うには、ここしかないと思ったんだ。

それも、担任のいないところで。



しばらく待っていたら、掃除監督を終えた川上先生が歩いてきた。



「川上先生、」


「あ、横内。」



奇跡的に、誰もいない廊下。

私は、先生の姿を見ただけで、安心した。



「お前、今朝担任さんに色々言われてただろ。大丈夫か?」



先生も、気にしてくれてたんだ。

思わず視界が歪んで、零れそうになった涙を必死に止める。



「それがもう、ひどいんですよ。教師に向いてないって。色んな理由を挙げて。」


「担任さんは、お前に恨みでもあるのか。」


「知らないです。」



むくれる私を、心配そうな顔で見る先生。

もうそれだけで、私の傷は癒える。

先生に会えば、それだけで。


そして、その後に先生が、何気なく言った一言が。

私の未来を変えたんだ。

その頃の私にとっては、素晴らしく明るい未来に。

でも、そのせいで私は、苦しむことになるのだけど。



「理学部でも、教員免許って取れるんだぞ。俺もそうだけど。」


「そうなんですか。」


「例えばだけど、S大学の理学部生物科学科なんて、二次試験の数学がⅡBまでだし。」


「S大学?」


「例えば、ね。」


「ふーん。」



その頃の私はまだ、地元の大学に行くつもりしかなかった。

県外に出るという選択肢は、私の中にはなかったんだ。


その選択肢を、与えてくれたのは先生だった。

川上先生だったんだ―――
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