センセイの白衣
その頃は、毎日が目まぐるしく変化していった。

私はその波に呑まれるように、次々に決断していったんだ。

現実から、どんどん遠ざかっていく恐怖と、解放感のはざまで浮き沈みしながら。


担任に呼ばれて、重い気持ちで職員室に行った。



「それで、結局どうするんですか?進路は。」


「理学部に行きたいです。」


「それはまた急に。」


「理学部でも、教員免許が取れるって聞きました。だから。」


「でも理学部の2次試験は、晴子の嫌いな数学があるんじゃないですか?それもⅢCまで。」


「ⅡBまでで受けられる理学部もあります。」


「ほう、例えば?」


「S大の、生物科学科です。」



担任は、苦々しい顔をして私を見た。



「それで、S大に行きたいということですか?」


「まだ、親と相談中です。でも、私の希望としては、S大を目指したいです。」


「それで、教師になる、と。」


「はい。」



担任は悪いことに、教育学部の出身だった。

だから、理学部を出て教師になる、という道は、担任にとって考えられなかったようで。



「理学部を出て教師になるなんて、おかしいですよ。やはり、教育を行う者は、教育の勉強をしていなければ。」


「でも!授業の技術とかは、実際に経験を積むうちに身につくものではないのですか?」


「いいえ。教師には素質というものがありますからね。芽が出ない人は、いつまで経っても出ない。」



教師の芽って何?

それって、人間を冒涜する言い方ではないの?


色んな生徒がいるように、いろんな先生がいていいんだと、私は思うよ。

芽が出る、出ないじゃなくて。


声が小さい先生の授業は、自然と皆が、先生の言葉に耳を傾けるようになる。

授業が下手な先生だって、そのおかげで自分で勉強する気になる生徒が、いるかもしれない。

何が芽?

何が、教師の理想像?

じゃあ、心を病んだ川上先生は、教師の芽が出なかったと言いたいの?


あふれ出しそうな強い思いが、心の中に渦巻く。

そんな私を、担任は冷やかに見ていた。
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