センセイの白衣
その週の土曜課外の空きの時間。

私はまた、川上先生のところにいた。

そこで私は、思いがけないことを知るのだ。



「川上先生!ずっと、考えたんですけど……。」



ひら、と私が先生に渡したのは、S大のことを調べた紙だった。

長い長い時間をかけて、S大のホームページを隅々まで見た。

そして、生物科学科について、色んなことを知った。

知る度に、行きたい気持ちは、どんどん高まって行って。



「本当は今日、ある集まりがあったんだ。」



川上先生は、私の出した結論には触れず、いきなりそんなことを言った。



「え?」


「でも、課外があるから行けなかった。」


「はあ……。」



先生は突然、机の引き出しから1枚の葉書を取り出して、私に渡したんだ。

そこには当然、私の知らない人の名前があって。

首を傾げていたら、下の方にあったS大の文字に、息を呑んだ。



「もしかして、先生……。」


「びっくりしたか?俺、S大出身なんだ。」


「じゃあ、理学部、ですか?」


「ああ。理学部の生物科学科。」



驚きに声も出なかった。

先生は、何気なくS大の名前を出したんだとばかり思っていたから。

でも先生のその一言で、導かれるようにS大に行きたくなってしまった。


川上先生は、こんなに素敵な大学を出ているの―――――



「この人、俺が学生時代にお世話になった教授。それで、今日は行けない代わりに、手紙を書こうと思って。」



そう言って、先生は下書きの画面を見せてくれた。

いいんですか、先生?

こんなの、ただの生徒に見せても―――



『〇〇先生


 私は今、県内でトップを争う進学校で、生物の教師をしております。

 今日は課外のため、先生にお目にかかれず……

   
 ……いつか、S大学理学部生物科学科に、生徒を送り込みたいと思っています。……』



そんな文字が、目に入った。


どうして?

どうして先生は、私にこんなの見せてくれるの?



「ここに行くってことは、お前教育実習で来るかもな!俺、面倒見ないぞ!」


「まだ行くって決まったわけじゃ。」


「分かってる。でも、目指すんだろ?」


「目指したいですよ。」



川上先生が、こんなふうに喜んでくれるなんて思わなくて。

そもそも川上先生が、S大の出身だなんて、夢にも思わなくて。


私はもっと、もっとS大に行きたくなってしまった。

それは、当然だったかもしれないね。

先生と、同じ道を歩んで。

同じ先生という職業に就けたなら……。

どれほど幸せだろうって――――

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