センセイの白衣
「そういえばさあ、お前の親、なんで反対してるの?」


「え?」


「お父さんもお母さんも、どっちも反対してるのか?」


「それは……、」



何て言ったらいいのか分からなかった。

重い空気にしたくなくて。



「私、お父さんいないんです。」


「え、そうだったのか。」



先生は、意外そうな顔で私を見た。



「それは反対するだろうな。」


「え?」


「だって、俺がもしお前のお母さんの立場だったら、絶対お前を県外へはやりたくないから。」



もし、って言ってるのに。

その言葉に、私の胸はとき、っと鳴った。

お前を県外へはやりたくない、って。

そこにだけ反応して。



「だけど、でも、先生?」


「ん?」


「私、行きたいです、県外。」


「うん、分かってる。」



先生は、笑って頷いた。



「分かってるよ。それに、俺もそれがいいと思う。一度は、たった4年でも、外に出てみるっていうのはいい経験になる。」



それを聞いて、思った。

確かに、他県で一人暮らしって、憧れる。

大変なこともあるかもしれないけれど。

自分ひとりの家。

自分で自分に責任をもつ生活。

お金をやりくりしたり。

親のいないところでしか、できないこともある。



想像すればするほど、夢は膨らんで。

何て素晴らしいんだろうって。

何て、楽しそうなんだろうって。


その日、帰ると私は、S大周辺の物件を探した。

安アパートの写真を見ながら、もしもここが、私の城になったら、と考えた。

誰も知っている人がいない場所で。

人生を切り開いていく。

4年間を、素敵なものにできるかどうかは、すべて私の手にかかっている。


それが、とても魅力的に思えた。

自由って、こういう気持ちなんだって。

心の底から思ったんだ―――
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