童話曇灯-fairytale detective-
不自然にスペースを空けて書かれた2つの名前。
それを見て、姫羅が首を傾げた。
妙に達筆な乙戯花氏のその文字は、部屋やペンの雰囲気に似合わない。
「おわかり?」
「何を、でしょう?」
「あなた方は“王子”と“姫”なんですよ」
「それは、名前に含まれる漢字が……と、いう……こと、ですか?」
小さくそう言った王輝を見て、乙戯花氏は美しく微笑んだ。
「えぇ。
O-Hiは漢字で書くと“王姫”。つまり“王”と“姫”になるのです」
満足げに言う乙戯花氏に、2人はそろって眉間にしわを寄せた。
漢字で書いて、“王姫”か。
言われて私もメモ用紙を覗く。
私の記憶が間違っていなければ、この機関の正式名称は“乙戯学園秘密警美部員”であり……
“王”も“姫”も入っていなかったはずである。
「ほら、あなた方以外に適任者などいないでしょう?」
強引すぎる理由に反論するポイントを見つけられない2人に、乙戯花氏は容赦なく笑顔を見せた。
「異議は受け付けません。断れば、……退学処分でいかがでしょう?」
乙戯花氏は、完全に権力の使い方を間違えている。
だが、私にできることが何もないのも事実だ。
ぽかんとした表情を浮かべる2人に憐れみの視線を送るのと同時に、乙戯花氏が言葉を重ねた。
「勝兎! 宝子さんと亜須賀さんを例のお部屋に案内して」
「かしこまりました」
私は、乙戯花氏に向かってゆっくりと頭を下げた。