童話曇灯-fairytale detective-
◇人魚姫のご機嫌
「亜須賀! 今日の練習は60分の予定だが、立ってるのもつらいだろう。そこのベンチを使ってくれ!」
放課後。
任御の大きく太い声が、プールに響いた。
「ありがとうございます」
簡潔にそう答えて、姫羅が空いているベンチに座る。
この時期の体験入部者が珍しいからか、そこにいるのが乙戯学園の姫だからか……
通常の練習とは違う空気が、プールサイドに漂っていた。
「さすが乙戯学園のプール、とでも言うべきなのでしょうか」
乙戯学園のプールは室内にある。
部活でしか使われないこの空間を、姫羅はぐるりと見回した。
縦50メートルの長方形を囲むように、白いタイルが壁を覆っている。
長方形の長い辺を辿るように置かれた数個のベンチには、タオルやジャージなど、部員の私物が並んでいた。
天井はガラス張りで、光が目一杯差し込む作りになっている。
夏だろうが冬だろうが、季節を問わずに練習ができる乙戯学園のプールは、その美しさも手伝って、この辺りではとても評判の良いものだった。