ねえ、撫でて


「どちら様ですか?」なんて聞かなくても誰だかわかっている。

ドアを開けると、予想通り、小春さんの飼い主である草間さんが立っていた。

「すみません。もしかしてまた来てます?」

「また来てます。そーだ、今日、チーズケーキ焼いたんです。よかったら一緒に」

「おっ、嬉しいな。夏希ちゃんが作るお菓子おいしいから」


私は得意なスイーツを口実に隣人の草間さんを部屋へ招き入れる。

今日は日曜日。早起きしてチーズケーキを焼いた。草間さんもお休みだと聞いていたから。

これってしたたかかな……。

ほんの少し、自己嫌悪に陥る。

だけど、私がこうできるのも小春さんのおかげ。小春さんは草間さんが洗濯物を干したり、取り込んだりする時を静かに狙っていて、窓を開けっ放しにしていると必ず隣の部屋のベランダにやってくる。

『また来てます』の『また』なのだ。

最初に来たのは一年前。草間さんが隣に引っ越してきて二日後の事だった。


仕事から帰ると疲れた体のアンテナが不穏な気配を察知した。



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