ねえ、撫でて




「んっ! な、なに?」

窓の向こう、ベランダの左隅でなにかが動いている。

怖がりの私。じわじわ広がる手汗。握っていた鍵がスルッと落下し、フローリングを傷つけた。

拾う余裕もなく、小花をモチーフにしたカーテンの隙間を凝視してみたけど、なにがいるのかわからない。だってここはマンションの五階。泥棒も動物も現れた事がない。

ブルーのリボンがついたスリッパを脱いで、ペンギンのようにペタペタとゆっくり前進し……深呼吸。

恐る恐るカーテンを数センチだけ覗くように開けた。


そこに佇んでいたのが小春さんだった。あまりの可愛さに急いで窓を開け、抱き上げると小春さんは「むにゃー」と鳴いた。


小春さんと桃色気分でイチャイチャ戯れる事、一時間。

インターホンが鳴り、ドアを開けると見知らぬ男性が「これくらいの猫、来てませんか?」と両手で小春さんの大きさを表していた。

それが草間さんだった。

私の冬眠していた恋心がその手とその顔で一瞬にして咲いてしまった。

紫陽花のように蒼い色をした瞳。横顔が見てみたくなるほど筋の通った高い鼻。触れたいと思わせるチェリーみたいな唇。白くて繊細な長い指。

草間圭祐さん、二十七歳。職業は外科医。

白くて繊細な長い指で沢山の命を救ってきた。

私は子供の頃、何度か入院した事がある。




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