ねえ、撫でて
夜中にベッドの上で小さく丸まって泣いていたら、様子を見にきた担当医の武内先生が「怖くないよ」と背中を撫でてくれた。
草間さんもそういう医師。手術で命を救うのは勿論、その手で心も温めている。
こうして草間さんの姿を見ていると患者でなくてもそれがわかる。同じ空間にいるだけで心が救われる。
私は草間さんが好き。
真面目な草間さんにはその想いが全く届いていないようで、ただの隣人として一年が過ぎた。
一緒にいるこのタイミングで時が止まればいいのに……。
まあ、私、原田夏希は地味すぎるくらい地味だし。仕事で向かい合っているのは常にパソコンだけだし。
なんかね……。そう、女子力が足りない。まだ二十四歳なのに。雑誌に載ってるモデルみたいになりたいな。憧れだけが見えないスポットライトで浮かび上がって募る。
小春さんを抱いていると、いい匂いがほんわりと私を包む。
匂い、というより、香り。
それは、草間さんの香り。
草間さんの部屋に小春さんを届けに行った時、外国製の柔軟剤が置いてあるのが見えた。その香り。
草間さんは爽やかだけどちょっぴり甘い、シャボン玉が空に浮かんで青に溶けてゆく、そういう香りが好きなんだと思う。