ラブスペル
2軒目に来てから、いつも爽やかに着こなしていると思っていたスーツが着崩れ、ネクタイが緩んでいる。

4人で来ている筈なのに、話しを振るのはもっぱら緒方だし。

確かに私よりも読者達に近い世代なのだろうけどさ。

緒方の初デートなんて正直、どうでも良いし。

……恨むわ、編集長。


年度末は何かと忙しくなるから、と編集部内での『お疲れ様会』は2月の締切り後の今日と、以前から設定はされていたのだけれど。

楽しく盛り上がった宴の後。

二次会コールが若い子達から上がった時、編集長が私を見て珍しくニコリと笑うから、嫌な予感がした。

案の定、有無を言わさず「若い人達で楽しんでおいでよ」と、万札をピラピラピラッと手渡してきたのだ。

私、若いククリに入るのか?とも思ったけれど、お金まで渡されたら私も早く帰りたいと言い難くなってしまい……今に至る。

ああ、今日はサックリ飲んだら、ハルと会う予定だったのに。


私の可愛い癒し犬、もとい年下の恋人、藤城陽希(ふじしろ はるき)は、雑誌等で活躍中の男性モデル。

最近は、ミュージックビデオやテレビドラマ等にも顔を出すようになり、とみに忙しい。

お互い忙しくて、この3週間ゆっくり顔を合わす暇もなかったのだ。

ようやく、ゆっくりまったり会える日が出来たと思ったのに、何してんのよ私。

< 2 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop