ラブスペル
確かに、ハルも手を繋ぐのが好きだけれど。

テレビを見ている時も、ソファに座っているときも、寝ている時も。

それは、子供が母親に手を差し出す感覚と似ているかもしれない。

極々当然の権利のように、手を差し入れて来る。


それにしても、握り心地を確かめるような緒方の行為を咎めるべきなのか、酔っぱらいのおふざけと30女の余裕を見せるべきなのか。

「ちょっと緒方、手離して。もう良いでしょ」

仕方なく自分で対処しようにも、緒方の奴、ニヤリと笑って手を離さない。

いつもの爽やか弟キャラは、何処へ行ってしまったのか。

「露骨すぎですよっ」なんて言いながら、花梨ちゃんはキャッキャッと笑っているけど。

「あっ、並木さんのスマホ鳴ってますよ」

雪ちゃんの言葉に、酔っぱらいから手を強く振り払える口実を見付けて、安堵した。

テーブルの隅に置いていたスマホから、確かにハル専用のメロディが鳴っている。

「ほら、緒方君も離してあげなよ」と、可愛い顔でたしなめる雪ちゃんに感謝しつつ、急いで陽希からの電話に出た。


『ねぇ、何で他の男に手握らせてんのさ』

陽希の低い声が、耳元をくすぐる。

私は陽希の言葉の意味を理解した瞬間、跳ねるように4人掛けテーブルから立ち上がって、首を巡らせた。


……離れたカウンター席に男が2人、発見。


スーツ姿の陽希のマネージャー佐竹氏と、ラフな黒いVネックのセーターに迷彩柄の細身のパンツを身に纏う、やたらと良い男オーラを出している陽希。

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