河の流れは絶えず~せせらぎ編~
医学部校舎へ入り、林太郎が所属しているゼミがある部屋へと向かう。
医学部の学生のほとんどは知らない奴が多く、通りすがりの奴らは部外者がこんなとこでなにやってんだ、というような視線を俺に浴びせかけた。
林太郎がいる教室はこの校舎の一番奥まったところにある。
途中、顔見知りの林太郎と同じゼミに所属している奴に、林太郎がいるかどうか聞いた。
「ああ、いるぜ。呼んでやろうか?」
「頼む。」
そういうと、教室の奥へ届くように
「おい!林太郎!客だ、客!」
と叫ぶ。すると、奥から、
「おー。今行く。」
と間延びした奴の声が聞こえてきた。
呼んでくれた奴が、じゃあ、と俺に手を上げて去っていった。
いくばくもしないうちに、奥から林太郎が姿を出してこっちへ歩いてきた。
こいつは、俺が一高時代からの旧い親友で、上背は俺と同じ六尺ほどだ。色黒な奴は俺と同じく古武道と剣道をともにたしなんでいて、大学へ行く傍ら、稽古を欠かしたことはなく、初夏の日差しの中でもきっちりとそれは続けられていた。
彼女とはほんとの兄妹ではないと、彼女がいつか話してくれたけれど、それでも、目元や笑った顔が良く似ているのは血が繋がっているからなのだろう、と思う。
俺の顔を見ると、なんだお前かと言い、とうとう来たか、という顔をした。
「もう少しで、片付けが終わるから、しばらく外で待っていてくれ。」
そう言われ、待つことにした。
本当にものの二、三分でやってきた奴は、
「すまんな、待たせて。」
そう言いながら、歩き出した。
俺も並んで歩きだし、校舎を囲むつつじの生垣に沿って、あまり人目につかない医学部の倉庫裏へと向かう。
裏へ廻って他の人間がいないことを確認して、林太郎は俺に振り返り鋭い視線を投げかけて来る。