風花
「俺は…」
「紡がどう思ってるのか知らないけどさ、私、遠恋とか無理だから。それに近くにいないなら付き合ってる意味ないでしょ?だから引っ越しするなら別れて」
「………」


呆然とする俺に、的確かつ利己的な台詞を告げる彼女。


…この瞬間理解した。

俺はこいつにとって“都合のいい男の一人”でしかなかったことに。


「それじゃ、そういうことだから。さよなら」


初めて、一年付き合ってきて初めてかいま見た彼女の本心、彼女の本質に言葉を失っていると、彼女はそう会話を一方的に締め括り、飲んでいたドリンクの料金を払うことなく、店を足早に出て行った。

その後ろ姿を呆然と見送りながら、俺は悟った。

呆気なく、本当に呆気なく、俺達の、いや、俺、“草部紡(くさべ つむぐ)”の“恋愛ごっこ”は終わりを告げたんだと……
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