強盗団は月夜に踊る
ドタンッ!
「いてて…。」
京子はベッドから落ちて目を覚ました。差し込む陽の光から、もうとっくに昼を過ぎている事に気付いた。
目が覚めてやることは決まっている。伸びをして、鏡を見に行き、携帯をチェックする。京子はそれに従い、携帯を見る。
「新着メール 1件」
「From:杏奈
Sub:仕事です!!
今夜9時にカフェ・ビートルに集合です。」
京子は少しだけ口元を緩ませた。久々の仕事、最近興奮を忘れていた京子には嬉しい限りのメールであった。
壁にかかっていた、お決まりの黒い革のジャケットを手にする。仕事のときはジャケットと決めていた。別に何を着ててもいいのだが、雰囲気を出すためという理由からである。
ジャケットに袖を通しながら、前に奈々が遊びに来たとき、このジャケットを指差して「京子が着んの?アレ。京子っぽくないし、渋いんだけど」と言われて一人であせった事を思い出した。
仕事の事は奈々には内緒である。親友にもこれだけは言えない。ちゃんと自分の中では正当な理論があるのだが、言ったら反対されるに決まっているのだ。
京子はそんな事を考えながら、準備をし、陽が傾き始めて、空の色が変わりだした頃に家を出た。一人で外食をしてカフェに向かうのは京子の中での決まりの一つだった。
月はまだ出ていない。