強盗団は月夜に踊る

杏奈

「あ~、もう朝からじめじめするわね。6月って中途半端だわ」

うちわを扇ぎながら、杏奈はブツブツとだらしない格好でつぶやく。結婚して2年。子供のいない専業主婦で、愛しの旦那さんは仕事で海外へ単身赴任。もうすぐ海外から帰ってくるが、このだらしないまま過ごす朝を、旦那の前で見せる勇気はまだ無い。杏奈は地味に癖になっているこのだらしない朝をもうすぐ過ごせなくなることを少し憂鬱に感じていた。

うちわで自分をひたすら扇ぐ杏奈はTVのワイドショーから流れる自分の町の名前に反応した。

『K市でついに60階建ての超高層タワービルが完成しました!その内装をいち早く紹介!』

杏奈の住んでいるマンションの窓からもしっかり見えている。周りのビルとは全くサイズが異なり非常に違和感がある。何故、この都心でもないK市にそんなものを建てちゃったのだろう。杏奈にはいくら考えても答えが出なかった。

『この超高層タワービル「フィール・ファイン」は商業施設にイベント会場、オフィスとさまざまなコンテンツが入っております。』

「旦那が帰ってきたら行ってみようかしらね…」

TVの画面でその空へ向かって付きあがるビルの内部の紹介がされている。窓から見えるが全くリアリティの無い感覚。杏奈はその感覚に少しゾクッとした。

しばらく、TVの画面に視線をやりながら他の事を考えていた。すると、ビルの紹介VTRが終わり、スタジオの司会者やコメンテーターの話に変わっていた。

『確か、このK市って一、二ヶ月前に連続コンビニ強盗があったところだよね。4件くらい。結構物騒なんじゃないの?』

司会者の治安の指摘のセリフに杏奈は、少しむっとした「危険じゃないわよ!誰も傷つけてないし、金があるとこから少しくらいもらったっていいじゃない。大体強盗なんていう表現がむかつくのよね。私たちは決して強盗をしているわけではないの………多分」

「…やっぱ強盗なのかな…」

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