指先に願いを
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「有村さん、この資料隣に届けてくれない?」
それから4時間程が経っただろうか、時計の針が11時を示す頃。先輩である年配職員から手渡された書類に、私は首を傾げた。
「隣って…市役所ですか?」
「えぇ、地域課に。行けば酒井くんがいるだろうから分かると思うわ」
「……」
酒井さんの、ところ…。
彼から来ることはあっても自分から行ったことはあまりないことから、一度渋ってしまう。
けれど頼まれては仕方なく、私はそれを受け取り図書館を出て少し歩いた位置にある市役所へと入って行った。
平日の昼間らしいまばらな人にどこか漂う静けさ。看板に書かれた『2F・地域課』の文字に従い、階段を上り2階へとあがる。