指先に願いを



「こんにちはー」

「はい、こんにちは。本日はどうされましたか?」

「……」



にこやかなその声に顔を向けてみれば、上ってすぐのところの『地域課』と書かれたカウンターでは、訪ねてきたお年寄り相手に笑顔で対応している酒井さんがいた。



「地域の交通安全活動についてちょっと相談があってねぇ、」

「はい、わかりました。じゃああちらの部屋のほうにどうぞ」



彼はこちらに気付くことなく、ニコニコとした笑顔をお年寄りに向けて奥の部屋へと向かって行く。



あれだけで、仕事が楽しそうに見えるのだから不思議だ。

人に接するのが上手なのは、人が好きだからだろう。そんな彼の地域の人に向き合う姿勢も、私は好きだ。



…なんて、変なこと言ってないで早く用事を済ませよう。

私はそう彼のいなくなったカウンターを覗き込み、中に声をかけようとする。


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