指先に願いを
「あの、すみませ…」
「ねぇねぇ、さっきの酒井さんの笑顔見た?すごい格好良かったよねぇ」
「……」
ところがその声は、室内で作業をしていた女性たちの話し声によってかき消された。
20代から30代くらいのその女性たちはこちらに気付くことなく話を続け、私も手早く用事を済ませてしまいたかったけれど『酒井さん』の名前につい聞き耳をたててしまう。
「本当酒井さんって格好良いよねぇ、私超好みー」
「えー?でもちょっと優男っぽーい」
「……」
予想はしていたけれど、やはり人気のある人らしい。きゃっきゃっとした声から悪口は出てこない。