指先に願いを



全て、分かっていた。





『酒井さん、彼女いるんですって』

『そうなの?まぁ格好良くて優しいものね』





彼は優しい人だから、恋人がいると聞いて納得出来る自分もいた。

恋人がいる相手に恋をするなんて叶わないことはしたくない、諦めなきゃいけない。そう何度も思った。





『有村、起きろ』





だけど彼がそう笑う度、その気持ちは消え去ってしまう。頭を撫でられる度、やっぱり好きだと感じてしまう。

そうやって一日一日を重ねて、現実から逃げていた。こんなささやかな時間でいい、一日のうちの数分だけでいい。それだけでも、幸せだったから。



だけど、もうおしまい。そんな夢を見るのも終わりにする。

リセットボタンを、押す時だ。





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