指先に願いを
「有村ー…ってあれ?」
「…酒井さん」
翌日の昼、休憩室を覗き込んだ酒井さんは驚いたように目を丸くする。それもそう、いつもなら寝ているはずのこの時間を本を手に過ごしていた私がいたのだから。
「どうした?珍しいな、お前が起きてるなんて」
「私だって起きてる時くらいあります」
「いつもほとんど寝てるだろ」
昨夜はあれからあまりゲームをする気にはなれず、ビビさんとの会話も早々に切り上げ眠りについた。
そのせいか今日は眠気はなく、本来はこれが当たり前なのだということを思い出す。
「何読んでるんだ?」
「外国のファンタジー小説ですよ」
「へー、有村って意外とそういうの好きなのな」
そう何気無く話しながら後ろから手元を覗き込む顔。また不意に近付く距離に、私はパタンと本を閉じた。