指先に願いを
「…本の返却に来たんじゃないんですか?」
「あ、そうそう。これな、頼むな」
そんな私に彼は思い出したように本を手渡すと、そのまま私の頭を撫でようと手を伸ばす。
「っ、やめてください!」
触れちゃいけない、咄嗟にそう思いつい私は彼の手をパシッと払った。
「……」
「…、…」
二人きりの部屋に、流れる沈黙。その中で、いつもと同じ優しい笑顔が驚きに変わる。
「有村…?」
「…ダメですよ、そんな風に気安く触っちゃ」
触らないでほしい
「結婚…するんですから」
その手は、私のものにはならないんだから。
顔を背け呟いた声に、彼の表情は見えない。