指先に願いを
「今、何時ですか…」
「12時50分。昼休みもう終わりだろ?受付戻る時ついでにこの本返却頼むな」
「…はい」
自然に流した黒い髪に、白いシャツと黒いセーター。涼しい目をした彼が手渡すのは歴史物の分厚い本。
それを愛想なく受け取る私に、彼はふっと笑ってよしよしと頭を撫でてくる。
「…気安く触らないでください」
「はいはい。午後も仕事頑張れよ」
そしてそれだけの用件を済ませると、彼はそっと手を離し部屋を後にした。
「……」
…気安く触らないでほしい。
長い指をした無骨なその手の感触が、名残惜しさを感じさせるから。もっと触れてほしいとか、離れたくないとか、静かな欲求が湧き上がる。
人はきっと、これを恋と呼ぶのだろう。