指先に願いを



あぁもう、伝えないで終わりにしようと思ったのに。言いたくなんてなかったのに。

抑えきれない感情を、ぶつけてしまう



「だから、もう触らないでくださいっ…」



そう言い切ったその時、突然後ろから抱き締める腕。



「…ならよかった。毎日触り続けた甲斐があった」

「…え…?」



布越しの力強い腕。それはぎゅっとしっかりと、この体を包み込む。



「酒井、さん…?」

「知ってる?俺がいつもどんな気持ちでここに来て、どんな気持ちで有村の頭を撫でていたか」



今こうして体を抱き締める彼が、どんな気持ちで触れていたか?



「有村が俺のこと好きになってくれますように、ってずっと願っていたんだよ」



耳元で響く、彼の願い

それはつい先程まで悲しい気持ちばかりだったこの心を、驚きと喜びに変えていく。



< 20 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop