指先に願いを



「…ちょっと、髪が乱れるからやめてください」

「元々セットなんてしてないだろー?」

「失礼なこと言わないでください。スプレーくらい使ってます」



他の女性たちのように綺麗に巻いたりアレンジをしたりは出来ないけど、せめて毎朝スプレーとブローくらいはしている。女としてそれくらいはと強調すると、彼は何かに気付いたらしく顔を近付けた。



「あ、本当だ。お前髪いい匂いするな」

「なっ…!」



突然近付いた顔。その不意打ちの距離に、驚きとともに心臓がドキッと音をたてた。

そんなこちらの気持ちなど一切気にせず、彼はくんくんと私の髪を嗅ぐ。



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