ツンデレ社長と小心者のあたしと……2
オフィスが入っているビルのエントランス。
そこを抜け、空を見上げると、朝方は天気の良かったはずなのに薄暗くなっていた。
一雨降るかもしれない。
そんなつもりじゃないとはいえ、この肌寒さならタートルネックを着ていて正解だった。
折りたたみ傘が鞄にある事を確認すると、区立図書館へ向かう。
図書館の有効利用も、社長が教えてくれた事だ。
「カード持ってない?今すぐ作れ。書店じゃ手に入らない資料が読み放題な上に、専属司書っていうプロまでついて金もかからない。それを利用しないでどうする?」
IT関係が強い社長から、インターネットでの情報収集ではなく、紙の媒体を勧められた事に驚きながら、その日に図書館カードを取得した。
知らなかったけれど、カードを所持していれば会社からでも蔵書検索が出来るし、資料の予約も出来る。
確かに、これは使わない手は無い。
というより、もし予約なし、図書館のスタッフに尋ねる事もなしで、一冊一冊資料を探していたとしたら、社長がどれだけ呆れる事か。
想像しただけで大惨事だ。
図書館を出るとポケットの中で携帯が震える。
《着信:城田社長》
名前を見ただけで手には汗。
けれどそんなことに構っていられない。
一秒でも早く電話に出なければ社長の足を引っ張ってしまうのだから。
「はい、もしもし?」
「あー矢野?お前今どこにいる?」
「今ですか?えっと区立図書館を出た所です」
「じゃあ今すぐ、四津橋のラウンジオータム、分かるな。タクシー使っていいから。あとメール送るから確認して」
早口でそれだけ言ってのけると、あっという間に電話は切れる。
あたしの仕事の事情なんて、全くお構いなしの社長。
……幸いにも今日は時間厳守の用事はない。
一刻も早く四津橋に向かう。それがあたしの任務であることは明白だ。