ツンデレ社長と小心者のあたしと……2
タクシーを捕まえると、その車内ですぐに社長からのメールをチェック。
【いつも使ってるマウスウォッシュ。二つ】
用件はたったそれだけ。
その文面を確認し、慌ててドライバーさんに行き先変更を伝える。
最寄りのドラッグストアに寄ってもらうと、シトラスとオレンジが混じったような香りの、いつもの社長のマウスウォッシュをすぐに見つけ、ほっとした。
社長曰く、
「人間関係において香りのエチケットは必須」
だそうで、どんなにラフな格好で会社に現れても、清潔感を保っている社長。
その愛用品が切れたとなれば一大事だ。
ほんのりピンクがかった液体の容器を眺めていると、あたしの口の中が同じ香りになった瞬間が脳裏に浮かんだ。
柔らかい舌に乗せられた、甘い匂い。
それがあたしの鼻孔をついて離れなかったこと……。
道は幸いにも空いていて、タクシーのおじさんが
「どこへ行くの?」
と下世話な顔で聞いてくる。
四津橋といえば、一大歓楽街でもある。
おじさんからしたら、仕事を早めに終えて、ぱーっと遊びに行くOLに見えるのだろう。
まさか、雑用係としてタクシーで洗口液を運んでいるなどとは絶対に言えるはずがない。
四津橋に到着すると、裏道に入った。
ラウンジオータムは、こんな人気のない裏通りに存在する。
実は、駅ビルにあるステーションホテルと繋がっているのだけれど、
「俺らみたいに顔がの知れている人間が出入りする為の、秘密の入口がこっちにある」
と聞いたのは、やっぱりこんなお届け物の時だったような……。