運命を画策した堕天使
教室に入れば、颯ちゃんはたちまち女の子達に囲まれる。
背は高いし、顔も良い、スポーツも勉強も出来て、優しい。
そんな彼は、女の子達から絶大な人気があった。
影では、爽やか王子と噂されているらしい。
彼から離れて、自分の席に着くと仲の良い友達が話しかけてきた。
「すごいねぇ、神崎君。」
毎日、同じセリフで感心している、室井遙香(むろい はるか)
その横で頷くのが、尾鷲紀子(おわせ のりこ)
二人は小等部の時からの友達。
「うん、そうだね、」
私も同じセリフを口にした。
二人はやれやれと呆れた顔をして私のおでこをツンと突く。
「二人とも、地味に痛いよ、」
「なぁーんで、二葉はそうなの?」
「そうだよ、なんで自覚がないのかなぁ~。」
はるちゃんとのりちゃんに言われている事が理解出来なくて首を傾げた。
「意味がわからないんだけど、」
心底わからないと首を捻れば、思い切りため息を吐かれた。
「あのね、」と、はるちゃんが言いかけた時、
「二葉、」
颯ちゃんが私の机の上に数学のプリントを置いた。
驚いて顔を上げると、彼の綺麗な長い指がトントンとプリントを叩く、
「あ、」
「ここ、間違ってたところ。」
「え、えっと、うん、」
「理解出来てないよね?」
「・・・うん、」
「しょうがないな、」
ポンポンと頭を叩く颯ちゃん。
「これと似たような問題が載っている問題集が家にあると思うから、今日の放課後も俺の家で勉強ね、」
「あ、うん。」
頷けば、また頭をポンポンして立ち去って行く、ぼーっとその後ろ姿を見ていたら、隣でコソコソと二人が話し始めた。
「さすが爽やか王子、甘やかしが半端ない、」
「二葉、羨ましいよ、」
やっぱり二人の言っている事がわからないと首をかしげれば、私の机を横切った女の子にギロリと睨まれた。
「ブスのくせに、」
そう言って去って行く。
人気者の颯ちゃんに私は不釣り合い。
お姉ちゃんなら、お姉ちゃんくらい美人で賢ければ、誰も何も言わなかっただろう・・・
結局、いつの時代でも私は惨めな想いをしなければならなかった。
―――
ちいさい頃は手を繋いでいた。
一緒にいられることが嬉しかった。
だって、彼に助けられた記憶はあるけど、その先の記憶はない。
いつも一瞬だけ、ほんの数時間、
それまでの辛い記憶は長く、長くあるのに、
でも、彼の視線の先は、美しくて賢い姉にあって、
自分には向けられない。
覚えているのだから、自覚はあった。
今の時間が楽しくて、忘れていたのだ。
そして小等部の三年生になった時、
その頃くらいから、颯ちゃんの人気がどんどん上がっていって、一緒に歩いていると、睨まれたり、悪口とかを言われるようになっていた。
ある日、教室の隅で女の子達に囲まれてしまった、みんな私を睨んでいる。
その中で一番怖い顔をした女の子が言った。
「卯木さんがどう思っているか知らないけど、神崎君にあなたは相応しくないから。」
「え、」
「神崎君も迷惑している、って、」
「・・・、」
「幼馴染みだからって、いつまでも神崎君を独り占めしないでよね!」
ドンと肩を押されて尻餅をついた。
そんな私をあざ笑うようにフンと鼻を鳴らして教室を出て行く女の子達。
・・・迷惑、
いつも助けられているばかりいて、なにも返してない。と、思う。
その辺の記憶がないからわからないけど、
せめてこの時代だけは、彼の想い人と結ばれて欲しい。
そう考えて、私は繋いでいた手を離した。
彼は繋がれなくなった手を不思議そうに見ていた。
「颯ちゃん」と呼ぶことも止めようと思ったんだけど、
「二葉ちゃんに、神崎君って呼ばれると気持ち悪いから止めて、」
なんて言われてしまい。
どうしようか迷っていると、カンの良い颯ちゃんに何があったのかバレてしまった。
なぜか彼はカンが鋭い、
私は顔に出やすいのか、すぐに思っていた事を当てられてしまう。
教室であったことを全て話すと彼は微笑んだ。
「うん、わかった。二葉ちゃん、大丈夫だからね。」
ポンポンと頭を叩かれて頷けば、きゅっと手を繋がれる。
繋がれた手を見つめていた私は、颯ちゃんがニヤリと笑っていることに気付かなかった。
―――
それから颯ちゃんのファンの子に、からまれたりすることがなくなった。
たまに嫌味を言われるくらいに落ち着いたのだ。
それは今も続いている。
何をしたのか気になったけど、そんなことを聞いても良いのかどうかわからなくて黙っていた。
私に何かあるとすぐに気付いてくれる優しい颯ちゃん。
彼のそばは温かくて安心する。
いつまでも、そばにいたい。
彼がお姉ちゃんを見ていたとしても、