運命を画策した堕天使
春から夏へ、季節は移り、
あっという間に夏休みになった。
休みになっても、いつも通り起きてくる私にお母さんが笑う。
「二葉は、ある意味マイペースねぇ。」
「?」
首を傾げれば苦笑いされて、洗面所へと連れて行かれる、お母さんが私の髪を結い上げてくれた。
「今日はツインテールね。リボンはこれ、うん、可愛い!」
「あ、ありがとう。お母さん、」
お母さんは器用だ。
いつも綺麗に結ってくれる。
私は不器用なので髪を結うことが苦手。
ヘタをすれば毎日、後ろで結ぶだけになる。
そんな私を見て、お母さんは毎朝、髪を結ってくれるようになった。
女の子はおしゃれじゃなくちゃ、なんて言いながら、
綺麗で賢い姉と分け隔てなく育ててくれる。
こんな母は初めてなので、小さい頃はどうして良いのかわからなくて、遠慮ばかりしていた。
役立たずと思われるのがイヤで、家の事も手伝ったり、自分で出来る事は自分でするようにした。
―――
そんなある日、私は熱を出してしまう。
体調が悪くても、働かなければと、フラフラする身体でリビングに向かったら、私の様子に気付いたお母さんがそっとおでこに手を当てた。
「二葉、熱があるわ。今日は寝てなさい。」
「あ、だ、大丈夫。」
力なく微笑んでお母さんを見たら、彼女は目に涙を溜めて、哀しそうに顔を歪ませた。
「お願いだから、お母さんの言う事を聞いて。二葉はいつも何も言わないから、お母さん、心配なの。」
・・・心配、
私の心配をしていた?
じっと彼女を見つめていると、本当に心配しているのがわかって、私はコクリと頷いた。
その後、自分の部屋に戻ってベッドで寝ていたけど、張り切って看病するお母さんに、どう接して良いのかわからなくてオロオロするばかり、そんな私に彼女はそっと言った。
「二葉は病人なんだから、なにも考えず看病されていたら良いのよ。」
「でも、家の事は?」
「二葉は気を使いすぎ、ね。家の事はお母さんがするものなのよ?子供の仕事は、家の事をする事だけじゃないわ。勉強とか、お友達と遊んだりとか、もっとたくさんあるはずよ。」
「・・・。」
「お家のことをお手伝いしてくれるのは嬉しいけど、もっと二葉のために、二葉のしたいことをしてちょうだい。ね?」
優しく頭をなでながら、諭すように言われて、私は静かに目を閉じた。
このままだと泣いてしまいそうだったから、
親の顔色を伺うように、
親のために生きていくのが当たり前だった、
けど、この人は違う、
母の愛情を教えてくれた。