Sweet*Princess



今井咲華。


うちの店の常連で、桐生の会長の愛人だ。


綺麗な人


街を歩けば誰もが振り向くような美女



でもさ、『綺麗な薔薇には刺がある』って言うじゃん?


まさに、それなんだよね。


昔はそんなことなかったのにな…


「ねぇ、雅斗。いつになったら壱斗に会わせてくれるの?」


そう、咲華さんは俺をこの店のナンバーワンにする代わりに、壱斗に会わせろって言ってる。


「咲華さんが俺をもっと愛してくれたらね」


ニコッて微笑むけど、実際は会わせる気なんてさらさらない。


だって悲しむじゃん?アイツがさ。


それに、この人がいなくてもナンバーワンを維持し続ける自信がある。


ナンバーワンの座を掴んだのは、この人のおかげだけじゃないからな。



「雅斗、入りましょう?」


その声に頷こうとした瞬間


彼女の背中越しに見えた、制服の女の子


「………ッ」


傷つけたくないと


いつも壱斗の隣で幸せに笑っていられるようにと



自分を犠牲にして秘かに守り続けてきた彼女が


今にも崩れ落ちそうに立っていた。



かと思えば、もつれる足を必死に動かして走り出した。




……俺って、やっぱナンバーワン失格かも。


客を置いて、違う女の子を追い掛けるなんて



でも、見ていられなかったんだ。


彼女の手から幸せがさらさらと流れ落ちてゆくのを


俺が食い止めてあげたいと、心の底から思ったんだ。



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