Sweet*Princess
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
コーヒーを出して、斎藤さんの隣に座る。
また沈黙。
斎藤さんがコーヒーをすする音だけが部屋中に響いていた。
「何で…、こんな広い部屋に一人で住んでるか。気になってます?」
「そんなことは…」
斎藤さんは否定したけれど、わかるんだ。
揺れる瞳。
さっきから何度も部屋中を見回してる。
「私…………、」
何でだろう。もう忘れたはずなのに。
声が
震える。
「家出してるんです」
窓から見える夜空はあまりにも大きい。
そして、暗い。
私が家出したのも、確かこんな夜だった。
「父親が小さい頃に亡くなって、母は私を一人で育ててくれました」
貧しいけれど、幸せな日々。
あの頃に戻れるなら、戻りたい。
そんな叶わない夢に、何度涙を流しただろうか。
「ある日、母が再婚するって言ったんです。その母はとても幸せそうで…、私はもちろん賛成しました。」
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