Sweet*Princess


「え?」



佐藤さんが私を見る。


「いないんです」



笑えてるよね、ちゃんと。



この胸の痛みもきっと、気のせいだよ。



ずっと会いたかった人に会えたんだから、嬉しいに決まってる。



こんな痛み、勘違いだ。




自分に思い込ませるかのように、何度も頭の中で繰り返した。




「じゃぁ…さ、俺、頑張ってもいい?」


「………え?」



胸の痛みを押さえるのに必死すぎた私は、佐藤さんが立ち止まっていることにも気付かなかった。



「彼氏いないなら、俺も候補に入れてほしいな…」



佐藤さんの言葉の意味に気付いて、赤面する。



だって、そんなこと言われたの初めてだし……


それに言ってる人が、ずっと想い続けてた人。



幸せ……なんだよね?




明らかに返答に困ってる私を見て、佐藤さんはまた笑った。



「とりあえずアドレス教えて?」


「あ、はい……」




携帯を取り出して、ふと気付く。


私、壱斗のアドレスも知らないや……


よくこんなので婚約者って言えたもんだね。



忘れよう。壱斗のことは。



今目の前にいるこの人を、好きになるんだ。


そのほうがいい。



もう、原因不明の胸の痛みに襲われることもなくなるだろうから……



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