Sweet*Princess
門の方向を、俺はいつまでも眺めていた。
もしかしたら姫乃が戻ってくるんじゃないか…って、淡い期待を抱いて。
……さっき、姫乃は家を出て行った。
“ありがとう、ごめんね”って言い残して。
姫乃は最後まで俺の目を見なかった。
俺は、姫乃を大切にできてなかったのかな?
後悔ばかりが、俺を襲う。
「壱斗様、お夕食の時間です」
いつも冷たい斎藤の声が、なぜか温かく感じる。
「なぁ、斎藤」
「何でございましょうか」
「姫乃に…、好きだって一言でも言えてたらさ、姫乃はずっとここにいたかな?」
押さえ切れないほどの想いはあったのに、弱すぎる俺は言うことができなかった。
「さぁ……でも壱斗様の愛は姫乃様に伝わっていたと思います。姫乃様はとても……幸せそうでした」
「ハハッ……幸せにしてもらったのは俺のほうだよ。少しでも、一緒にいることができたから」
「泣きたいなら泣いてください。……まぁ、涙を我慢される顔も女子にとったら萌えポイントなんでしょうけど」
「ハハッ。何言ってんの。」
斎藤の顔で“萌え”なんて言うから、少し笑ってしまった。
不器用なりに、慰めてくれてるんだろう。
*