Sweet*Princess
「“幸せになって”って言う時、声震えた。だっせーなぁ…」
今日、姫乃は何回泣いたんだろう。
わからないようにしていたのかも知れないけど、俺にはわかった。
学校で会って、別れた後。
後ろ姿を幸せ感じながら眺めてた恋する乙女的な俺は、泣く彼女を見て何もできなかった。
背筋を凍らす嫌な予感に、気付かないふりをして手をギュッと握った。
なんて弱い人間なんだろう。
「壱斗様、姫乃様は戻ってきます」
「急にどうしたの」
乾いた笑いを洩らしてみたけれど、内心は動揺を悟られないかってドキドキしてた。
だって斎藤は、その場しのぎの慰めは絶対しないから、本気で言ってることはわかったんだ。
でも、期待はしない。
期待したらしただけ、叶わなかった時が辛いから。
「根拠のないことを言うな」
これが、俺の精一杯の強がりだった。
「根拠はあります……私の野性の勘です」
それが根拠になんのかよってツッコミは胸に秘めて、めずらしく熱くなってる斎藤を眺めた。
「ありがとな」
「………いえ」
空に昇る月を眺めた。
姫乃もこの月を見ているのかな。
……って、俺、ロマンチストじゃねーっての。
「飯行こう、飯!」
最後に胸に焼き付けた姫乃の顔を忘れないように、俺は笑った。
*