Sweet*Princess
昼休みの屋上。
涼しい風が、夏の匂いを運んでくれる。
「あっついねー」
眩しい光に目を細めて、太陽に手をかざした。
「姫乃…、あんた家出たんだって?」
後ろから美帆の声がする。
屋上行こうって言われた時点でその話だろうとは思ってたけど。
「出たよー?斎藤さんに聞いた?」
美帆のほうを振り向かないまま、笑って答えた。
「後悔するよ?」
後悔?
そんなもの
とっくにしてる。
「何を信じればいいか、わからなかったの」
信じたかったものは“大切にする”って言ってくれた壱斗の瞳と声。
でも現実は、遊園地で言われた“あんたと壱斗は釣り合わない”っていう事実。
でもこんなのは言い訳で
私が弱いから、壱斗の言葉を信じられないだけ。
私は壱斗から、逃げたんだ。
「戻る資格なんてない。壱斗を信じられない私に、壱斗の隣にいる権利なんてない」
美帆が近付いてきて、隣に立ったのがわかった。
「ねぇ、美帆……」
「ん?」
「昔お父さんがね、こんなこと言ってたの。“目を閉じた時、一番に頭に浮かぶ人が姫乃の一番好きな人だ”って…」
そっと、目を閉じる。
眩しい太陽の残像が見える。
その中でも、一際輝く綺麗な笑顔。
「私が見てるのは………間違いなく壱斗だよ」
涙が頬を、伝うのがわかった。
*