Sweet*Princess
でも、壱斗を“兄”と言えるほど強くはなくて
私も曖昧に笑った。
「お兄さん、どこかで見たことあるような気がしたんだけど」
「気のせいじゃないですか?」
「うーん……ま、いっか。姫乃ちゃん、明日暇?」
「はい、すごく」
「じゃーさ、…………」
話が変わったことにすごく安心した。
動揺を悟られそうで怖かったから。
何時間か話した後、佐藤さんはバイトがあるからと帰って行った。
しばらく放心。
何も、考えたくなくて。
そろそろ帰ろうと立ち上がった瞬間
「姫ちゃん」
声をかけられた。
「お母様!」
相変わらず綺麗な壱斗のお母様は、私に変わらぬ笑顔を見せてくれた。
挨拶もせずに出て行ったのに。
壱斗の優しさは、両親から受け継いだものなんだ、と一人で考えた。
「ちょっと話せるかしら?」
「あ、はい…大丈夫です、けど…」
「そんなに怖がらないで。無理矢理家に連れて帰るようなことはしないわ」
少し意地悪な笑顔で本当のことを言い当てられて、苦笑いした。
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