私は男を見る目がないらしい。
ひそひそと話す私たちに、その男はくすりと笑った。
「あー、俺が誰かわからない?」
「!!い、いや……その」
「だよなー。やっぱ気付かねぇよなー」
けらけらと愉しそうに笑う男に、やっぱり湧いてくるものは罪悪感だけ。
記憶は全く湧いてきてはくれないのに。
っていうか「やっぱ気付かない」って、思い出してもらえないことを予想してたってことだろうか……?
それはそれで、思い出してあげられないことが何だか申し訳ない気持ちになるのが、人情ってものだ。
私がこの人の立場だったら絶対にヘコむ。
これは素直に謝った方がいいかもしれない。
「……う。申し訳な」
「でも、相原さんならもしかしたら気付いてくれるかもって期待してたんだけど」
「え?私っ?」
「ちょっと、みお!何か思い出せないのっ!?」
「え、えっとぉぉー……」
必死な表情の香代子、そして、にっこりと笑った男。
私にじーっと集まるその二人の視線に、私は目を空中に泳がせる。
でもそこに答えは浮かんではいなくて、やっぱり頼れるのはなけなしの自分の記憶だけ。
っていうか急に私を指名されても困る!と思いながら、仕方無しにもう一度念入りに出席番号を辿っていく。