私は男を見る目がないらしい。
 

「…………。」


3人の間にたっぷり1分ほどの沈黙を作って思い返してみたけど……残念ながら、結果はさっきと同じだった。

何も出てきやしない。

……仕方ない。

これはもう、思いきって名前を聞くしかない。

どうせもう、この人のことを覚えていないことは知られちゃってるんだし、これ以上は罪悪感も何もない。

誤魔化し続ける方がきっと失礼だ。

腹をくくった私は、普段は滅多に付けない“えへら笑い”を顔に引っ付けて、その男に向ける。

……この際、オプションとして一緒に拝む手もつけておこう。


「ご、ごめんねっ?」

「はぁ。どうせな。別にいいけど」

「ほんと、ごめんごめん!……で?どなた様でしょう……」


窺うように聞く。

その横では香代子もごくりと唾を飲み込んで、耳をダンボにしている。

私と香代子の窺うような表情を見比べた後、男の口がくいっと綺麗な弧を描いて、ゆっくりと開いた。

 
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