駅のホームとインディゴブルー
抜け落ちる
「わたしはわたしのことしか考えていませんでした」

「すげー棒読み。何があった」

「何も聞かずに言わせてください。わたしは…」

「はいはい、じゃあそこの自己中女、今からわたしのことを思いやってコーヒー牛乳買ってきて」

「え、何でそうなるの」

「はよう行け」

100円を手のひらに乗せられたわたしは、仕方なく教室を出て自販機に向かって歩き出した。

廊下はひんやりとしていて首筋に悪寒が走る。

昨日、彼は何か言いかけているようだった。

わたしはただ慌てていて、必死で、立ち止まって聞き返す余裕なんてなかった。

丁度よく乗れたからいいものを、もしあの時電車が来てなかったらわたしはどこへ向かうつもりだったのか。

そして突然逃げ出したわたしを、彼はどう思っているだろうか。

失礼なことしちゃったな。

マフラーが似合うと言ってくれたことにお礼も言えなかった。

あの状況にびっくりしてドキドキしてたのはわたしだけで、彼はただわたしにフランクに話しかけてきてくれたに過ぎない。

しかも『ずっと前から』と言っていたからやっぱりわたしのことに気付いていて、わたしが彼のことが気になっているということにも気付いていて、それで何となく気まずくなりつつあると感じて、気を遣ってくれたのかもしれない。

そんな彼のご厚意を無駄にしてしまうとは。

わたしはなんて卑劣極まりない人間なんだ…!

自販機の表面にうっすら映った自分の顔は浮かない表情をしていた。

今日はわざと乗り過ごして、謝ろうかな。

いや、それだとストーカーみたいで気持ち悪いか。

そんなことを考えながらボタンを押したら、コーヒー牛乳ではなくオレンジジュースが出てきた。

…間違えた。
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