駅のホームとインディゴブルー
わたしはポケットの中でケータイが震えたのを感じて、すぐさま取り出してメールを開いた。

「誰?」

「水穂くん」

さっき『文化祭来たよ』と送ったら、『ごめん、急に頼まれちゃって今店番なんだ』と返ってきて、それでまた『じゃあ買いに行くね』と送ったら今度の返事はこうだった。

「『ごめん、教室の中には入らないで!』」

わたしのケータイの画面を覗き込みながら芽以子が読み上げる。

「って言われてももう目の前にある場合はどうすれば」

わたしたちはちょうど「ワッフル」の看板が下がっている教室のドアの前に着いたところだった。

「そんなの知らん。入ろう」

「おー」

躊躇なく進んでいった芽以子に続いてわたしも足を中に踏み入れる。

すると途端にはちみつの甘いにおいが鼻孔をくすぐった。

賑わいの声と、たくさんの人。

クリーム色とこげ茶色を基調とした内装、そしてはちみつと関連させているのか、いたるところにクマ。

机もイスも、壁も床も天井までもに装飾がなされていて、もはや教室だったと思われる要素がどこにもなくなっていた。

手前側はカフェスペースになっていて、奥の方に売り場がある。

「飛鳥、何にする?」

「んー…」

わたしは周りをきょろきょろと見渡してみたけど、水穂くんはいなかった。

そして「入らないで」と言うほどの何かは、特にこれと言って見当たらない。

「どうした?」

「あ、ごめん。メニューって何があるんだっけ」

「プレーンとメープルとココアと抹茶」

「じゃあ抹茶」

「渋っ」

「ねぇねぇ、君さぁ」

わたしの選択に一瞬顔をしかめた芽以子の肩を、後ろに並んでいた大学生っぽい私服を着た男の人が叩いた。
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