駅のホームとインディゴブルー
そして思った、ちゃんと覚えてる、と。

特徴は、と聞かれてもはっきり答えられないけど、その存在を、姿を、仕草を、空気を、わたしはどこかでちゃんと記憶している、好ましいものとして。

もしこのマフラーをしていなくて場所がここじゃなくても彼だとわかるし、逆に同じ格好で同じシチュエーションで全く別の人と会っても、そのことに気付くと思う。

根拠なんて全然ないけど、なぜかそんな風に思った。

よかったな、今日も会えて。

予想外の遭遇に舞い上がっていたのかもしれない。

そして寝起きで気が緩んでいたからかもしれない。

すれ違う瞬間にほんの僅かに声に出して笑ってしまった。

視界の端に顔をこちらに向ける彼が見えた。

何とはなしに振り返る。

――目が合う、当然。

その瞬間、冷水を浴びせられたかのように目が覚めた。

急いで前に顔を戻す。

血の気が引いていった。

考えもしなかった。

だって彼はいつも軽くうつむいていたり遠く向こうの方を見ていたから。

でもだからと言ってわたしに気付いていないということにはならないのだ。

恥ずかしさからなのか、急にざわつきだした心を紛らわすように、急いで改札を出た。

ドアが閉まる音が遠くからかすかに聞こえた。
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