月夜の黒猫
―空Side―
『…今から手を離すから、黙ったままあの角まで歩いて。』
空「(コクコク)」
急に向きを変えられ耳元でそう囁くと月詠は僕から手を離し間に距離をとって歩き出した。
僕は言われた通りに月詠の後ろをついて歩く。
そして、ようやく下駄箱から見えない位置の角を曲がると僕は膝から崩れ落ちそうになった。
ガシッ
『………』
空「!」
それを月詠が僕の腹周りに腕をまわして支えてくれ、何も言わずに壁を背に座らせてくれた。
『…これ飲みな。さっき買ったばかりだからまだ新しい。』
空「えっ、あ、ありがとう…、」
月詠は自分のカバンから真新しい冷たいミネラルウォーターをとりだしてキャップを外し僕に手渡した。
僕はそれを受け取り1口飲んだ。
思いの外、緊張で喉が乾いていたらしい―…
そこで僕はやっと一息ついた。
『…少し落ちついたみたいだね。保健室行く?それとも屋上のが落ち着く?』
空「っえ?担任が探してたんじゃ…?」
『ん?あれは嘘。君が今にも倒れそうだったから適度な口実つけた。あんな事実はない。』
空「……、」
僕が落ちついたのを感じとったのか月詠はこの場から移動することを提案してきた。
それに対して、僕が疑問に思ったことを聞くとあっさり嘘だということを言ってのける―…
…―僕は唖然とした。
『……とりあえず、今は移動する。文句は後から受け付けるから今は黙ってて?先に謝っとくごめん。』
空「えっ?!」
そう言うが早いか、月詠は僕の手からペットボトルを抜き取り自分のカバンにしまうと、僕の手を引き素早く自分の背に僕を乗せた。
いわゆるおんぶってやつ―…
もう、めちゃくちゃすぎて思考がついていけなかった。僕は若干諦めつつ月詠の肩に額を乗せて顔を隠した。
今までの僕じゃ、絶対ありえなかった感情が胸の中を巡っていた。
月詠は女なのに、不思議と嫌悪感がなく逆に安心感が胸の中を占拠していた―…
そこで、月詠から発せられている優しい香りと心地良い体温に僕は意識を手放した―…
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