恋物語。
「…坂井さん。すごく良かったから。」
「そっ…!そんなことないですよ…っ!!高橋さん褒めすぎ…っ」
「俺…褒めたつもりないけど?」
「へ…?」
手を横に振り否定する私の言葉を遮る、高橋さん。
今の彼は…真剣な眼差しで私のことを見つめてくる。
“褒めたつもりない”って…どういうこと…?
「ほんとにいいと思ったから。俺…本気だから。」
「……」
高橋さんはそう言って休憩室を出て行った。
本気…?って…どういうこと…?よく分かんない…。
って。思ったのは私だけだろうか…?
その日は定時で上がれるという高橋さんと駅まで一緒に帰ったりもしたけれど…。
『それさー…遠まわしに告白されたんじゃない?』
「えっ…!?」
家に帰って朱里に電話をかけ今日のことを話すと言われた一言。
『だって“本気だ”なんて言われたんでしょー?そんなの気のない相手には言わないでしょ、普通。』
「そ…そうかな…?」
『そうだよ!知沙は恋愛経験が少ないから、そっち方面の考えがないだけ。だから気をつけるんだよ?』
「うん…」
朱里の諭すような言い方に半信半疑で頷く。
『てかさ、彼氏がいることは言ったの?』
「え…?特に聞かれてないから…言ってない…」
『はぁ~~…』
私の言葉に明らかに呆れたため息が聞こえてきた。
「え!?な、何で!?だって聞かれてないもん…っ」
『そうだとしても気がありそうな人には先制攻撃しとかないとダメなの!
いないって思われて期待なんかされたら、もっと困るでしょ?』
「うん…それは分かるけど…」
『だったら…言えそうな空気になったら、ちゃんと言うこと。分かった!?』
「はい…分かりました…」
高橋さんの思惑は私には分からないけど…
朱里の言うことは胸に刻んでおこうと思った。