恋物語。




―夜。


仕事が終わった私は聡さんのお家へと向かった。

だけど既に帰っているのか分からなかったからオートロックのインターホンを押してみると彼はそれに応答したので、もう既に家に帰っているのだとその時、初めて分かった。



ピンポーン



「…いらっしゃい。どうぞ?」


部屋のインターホンを押すと開かれるドア。
そこから顔を覗かせた彼は優しい顔をしていた。



「お邪魔します…」


私はそう言って部屋の中に足を踏み入れた。



「あ…コート貸して?掛けとくから。」



「あ、はい…ありがとうございます…」


玄関でコートを脱いでいた私に聡さんがそう言う。
私は、その指示に従いコートを手渡した。



「いいえ。じゃあ先、ソファー座ってて?」



「はい。」


コートをハンガーに掛ける彼の姿を横目に、
私はリビングにあるソファーへと腰掛ける。



「……」




でも聡さん…何で急に私を呼んだんだろう…?
っていうか…私も聞きたいことがある、んだけど…。




「っ…」


思考を巡らせている間に聡さんが私の隣に座った。



「ねぇ、」



「え…っ?」


声をかけられ振り向いた瞬間、彼は私の眼鏡を奪う。
そのせいで目の前には輪郭のはっきりしない世界が広がった。



「何でさ…俺がいること、言わなかったの?」



「へ…?」


聡さんの言うことが私には全く理解できない。




“俺がいること、言わなかったの…?”って…一体、何のこと…!?




「はぁ~…ねぇ、知沙。ほんとに分からない?」



「はい…」


私の反応を見た聡さんから呆れたような声がした。
だけど、そんなことを言われても…分からないものは分からない。



「んじゃあ、はっきり言うけど…」



「っ…」


聡さんはそう言いながら私の髪を両方の耳にかけだす。




なななな、なに…!?妙にドキドキするんですけど…っっ





< 112 / 148 >

この作品をシェア

pagetop