恋物語。
家族
―3月下旬。
ここ最近、休日出勤の多かった彼も…今日はお休み。
そして…“大事”な所へ二人で向かう―。
「…ここ。」
電車で揺られること約一時間。
彼が立ち止まりそう告げる。
「ここが…聡さんの実家…」
私は噛みしめるように呟き目の前の建物を見上げる。
一軒家の二階建て。外観は…周りのお宅より少し綺麗に見える。
ドキドキドキドキ…
「っ…!」
「大丈夫…?」
ドキドキと鳴り響く心臓の音が聞こえていたみたいに…聡さんは私の手をギュッと握り締めた。
「……はい…っ」
少し間が空いてしまった返事。
だけど私は…本当に大丈夫…。
だって隣には…聡さんがいるんだから―…。
ガチャ…ッ
「…ただいまー」
「…あらっ聡!おかえり~」
私の心を読み取ってくれたかのように彼は玄関のドアを開ける。
するとすぐ…お母さんらしき人が、こちらへとやって来た。
「まぁ…こちらが知沙さん?」
「うん、そう。」
「はっ…初めまして…坂井 知沙と申します…」
私は咄嗟に名前を告げて頭を下げた。
「初めまして。聡の母です。ささ、どうぞ上がって?」
「あ、はい…あのっこれ…もし、よかったら…」
彼のお母さんが優しく微笑み、家の中へ上がるよう促す。
それに答えるように頷いたけど…手に持っていた紙袋を手渡した。
「あらまぁ!いいの~?どうもありがとう。」
そう言って、さらに嬉しそうに目を細めて微笑んだ―。