恋物語。
「…あ、そだ。この子、人見知りが激しくて全然喋らないと思うので、どんどん話しかけてくださいね?」
「ちょ、ちょっと朱里…っっ」
「あ…やっと声聞けた」
朱里が井上さんに向かってそんなことを言うから止めに入ろうとした所に井上さんの声がそれを遮る。
「……」
私は何を言っていいか分からず下を向き、ずれてもいない眼鏡をまた直した。
う~…ど、どうすればいいんだろ…分からない…っっ
「じゃあ、いろいろ頼んでいきましょっ」
朱里はそう言うとタブレット型端末を手に取る。
ここのお店は、これを使って全て注文するらしい。
「まず飲み物ですよね~…?井上さん何にします?」
「じゃあビールで」
うわ、大人…。
「はーい。純也は?」
朱里は端末を操作しながらそう聞く。
「俺も同じで」
わ、こっちも…。
「はーい。私は…カシスにしよっかなー…?知沙どうする?やっぱり烏龍茶?」
「あ…うん…」
私のことをよく知っている朱里はそう聞いてくれた。
「あれ…?知沙ちゃん飲めないの?」
「!!あ、えと…そうじゃなくって…あんまり飲まないから…どれがいいのか分からなくって…」
突然、井上さんに話かけられて驚きながらもそう答える。
だからさっき、二人がビールを頼む姿を目の当たりにして“大人だな”なんて思ってしまった。そんな私だってもう充分、大人だっていうのに…。
というか…ビールなんて絶対に飲めない。一度だけ飲んだことがあるんだけど…苦すぎて、あれの美味しさなんて分からないんだもん。
「ふーん…そうなんだ。じゃあ俺があとで教えてあげるよ」
ね?そう付け加えて井上さんはニコッと微笑んだ。
あ、えと…こういう時はなんて返せば…っ
「もう知沙っ!そんなに緊張しないのー!井上さん、ごめんなさい」
「あ、いや。別に俺のことはいいよ、気にしないで」
そう言って再びニコッと微笑む。
何だかそれが…“大人の余裕”に見えた気がした――。