恋物語。
―約一時間半後。
撮影は無事に終了した。
今回は相手役がいたからだろうか…前回よりも楽しいと思うことができたような気がする。
それに慎一くん…私が人見知りなのを知っていたのか分からないけれど、ずっと話をしてくれていたんだもん。
「…知沙さん!お疲れ様ですっ」
「ぁ…お疲れ様です」
慎一くんに話しかけられた。
「このあと、どうするんですか?」
「え…?私はもう帰るけど…」
「そっかー…いいなぁ。俺は仕事なんですよねー…」
彼はそう言って苦笑い。
「あ、そうなんだ…頑張ってね?」
「はい。じゃあ知沙さん…手出して下さい」
「え…こう…?」
彼にそう言われて何も分からぬまま右手を広げた。
「……これ。」
「え…?」
すると彼は四つ折りぐらいに織られた白い紙を私の手に乗せる。
なに…?これ…。
「…俺の連絡先。よかったら連絡下さいね?それじゃあ。」
慎一くんはそう言って微笑むと撮影スタジオを出て行った。
え…?私に…?これって…受け取ってよかったものなのかな…。
「…坂井さんっ」
「っ!」
ボーッとそんなことを考えていた時、遠くの方から聡さんに呼ばれて慌ててそれを手のひらの中に隠した。
「あ…井上さん…お疲れ様です…」
「お疲れさま。さぁ行こうか。」
「…はい。」
返事をすると歩き出す聡さんの背中についていき楽屋へと帰っていった――。