恋物語。
「…っ」
彼が私の腕を掴んだことで強制的に走るのを止められた。
「さっきの…見たんだろ?」
背中越しに、いつもと違うような気がする彼の声が聞こえる。
「……見ました…わざわざ言い訳しに来たんですか…?」
自分でも全然可愛くない言い方だと思った。
せっかく…追いかけて来てくれたというのに…。
「何言ってんだよ!?言い訳…?そんなんもんを言うために俺は知沙を追って来た訳じゃない。」
「じゃあ…何で…?」
それ以外…何があるというの…?
「…あれは誤解。俺は、あの子と…キスなんてしてない。」
「っ…そ、そんなの…分からないじゃないですか…!?証拠でもあるっていうんですか…!?」
「…あるよ。」
「っっ…!」
彼はそう言うと私の両肩を掴み身体を180度回転させた。
「よく見て。あの子…グロスつけててキラッキラだったの。それ、ついてる…?」
「っ…」
確かに、あの女の人は…遠くから見ても唇がキラキラしていた印象があった。
だけど聡さんの唇には…そんな、キラキラしたものなんて…一切ついていない。
「グスッ……手は…?」
「手…?」
私の発言に彼は不思議な顔をした。
「…拭き取ったかも…しれない…っ」
何で私は…こんなにも可愛げがなくって…彼を信じられないんだろう…。
「……はい。知沙の気が済むまで…確認しなよ。」
彼はそう言って私の目の前に両手を広げた。
私はそんな彼の手を取り、キラキラしたものがないかを確認した。
「……ない…です…」
だけど、くまなく見てみたって…そんなものは存在などしなかった。
「じゃあ俺の言ったこと…信じてくれる?」
「はい……ごめんなさい…っ」
私は…初めて彼に抱きついた。
「知沙…」
私は彼のことを信じ切れることが出来なかったのも関わらず…
彼は優しく抱き締めてくれるし頭も撫でてくれる。