恋物語。
story.10
お酒
―8月某日金曜日。
世間では“花金”と呼ばれる金曜日。私はそれを…身を持って“体感”している。
それはなぜかと言うと…仕事終わりに聡さんのお家に行って、そのままお泊り…という予定が入っているから。
あれから何度かデートはしたし、お家にだって行ったけど…“お泊り”をするのは怪我をした、あの夜以来―。
カタカタカタカタ…ッ
終業間際まで、いつもと変わらない作業を繰り返す。パソコンに向かい納品数の数を入力していく。
「……。」
あ、ダメだ…。もうすぐ聡さんに会えると思っただけで…にやけてしまう…。
「坂井さん…このあと予定でもあるの?」
「へ…っ!?」
順調に作業をこなしていた時、隣のデスクで仕事をしている早川さんにそう尋ねられた。
この早川さんとは…唯一の女性の先輩。あとはみんな男性。ちなみに一番下の後輩は私。
「何で…ですか…?」
私は慌てて彼女の方を振り向く。
「だって…顔が、にやけてたんだもん。気をつけなさいよ?」
「っ……はい、すみません…。」
早川さんに“それ”を指摘されて気を引き締め直して再びパソコンに向かった。
その時―…、
ブー…ッブー…ッ
デスクの上に置いてあった私の携帯のバイブ音が聞こえた。
そのバイブの短さから“メール”だと悟った私は、メールボタンを押す。
「ぇ…」
その相手は聡さんからで…その内容に衝撃を受けた―。
【お疲れさま。
知沙ごめん!今日、急遽飲み会に誘われちゃって…断ろうとしたんだけど、俺がいないと意味ないとか何とか…って、ごめん。言い訳にしか聞こえないよね…?本当にごめん。
合鍵使って部屋入ってて?】
「//…っ」
でも…最後の一文に少し照れる。
“合鍵使って部屋入ってて?”
なんて“いい響き”なんだろう…。“特別”感が半端ないよ…っっ
【お疲れ様です。
私は大丈夫です。聡さんは人気がある人だと前から知っているので。先にお部屋に行って待ってます。】
それだけを送って残りの業務に励んだ――。