恋物語。
story.12
距離
少し肌寒くなってきた頃…俺は会社帰りに駅前で知沙を待っていた――。
『ぁ……聡さん…っ』
俺を見つけた彼女が駆け寄ってきた。
『お疲れさま。てか…いつも走ってくるよね?いいのに、そんなの。』
『お疲れ様です。だって…いつも聡さんの方が早いし…私、待たせるのって好きじゃないんです。』
『…何で?』
『何か…申し訳なくなってしまって…』
彼女はそう言いながら俯く。
何それ…?可愛すぎなんだけど。
『別に俺は大丈夫だよ。はい、分かったら顔上げる。』
『…はい。』
彼女はそれに従って顔を上げた。
『……良い子。』
そう言って彼女の頭を撫でた時―、
『……先輩…?』
遠く昔に聞いたことがあるような声で、そう呼ばれた気がした。
そして…その声が聞こえてきた方角を見る。
『……瞳(ひとみ)』
俺を呼んだのは…大学時代の後輩、で……元・彼女。
『聡さん…?誰かお知り合いですか…?』
不思議そうな顔で俺を見上げていた彼女が後ろを振り返る。
『え…!?早川さん…っ!?』
すると彼女は…瞳の名字を呼んだ。
え…!?待って待って…!?
『知沙…何で知ってるの?』
『え…何でって……私の先輩ですもん…』
彼女は半回転して俺を見上げてそう言う。
ということは……ax famの社員ってことか…!?
『ほんとにビックリした…。まさか先輩の今の彼女が坂井さんだなんて…』
瞳は、かなり驚いたような表情を俺たちに向けた。
『あのっ…早川さんと聡さん、は…どういう関係なんですか…?』
『ん…?同じ大学だったの。その先輩と後輩。』
彼女が瞳にそう問うと、瞳は“それだけ”を答えた。
この再会が…“悲劇”の始まりだったのかもしれない―――…。