恋物語。
story.13
対面
―朱里にあぁ言われて…十数分。
「……。」
携帯画面に“彼”の名前を出して…“通話ボタン”を押せずにいた。
それに…押そうとする指が震えてしまう。
でも…かけなきゃ…っ
朱里と聡さんは…同じ職場。
ふとした時に出会ってしまう可能性だってあるんだから…。
その時、朱里なら…絶対、彼に私とのことを聞くはずだろう。
それでもし…私が連絡してないなんてことを知ったら…また心配をかけてしまう―…。
「ふぅ……よし…」
私は一つ息を吐き、意を決して“通話ボタン”を押した。
プルプルプルプルッ…プルプルプルプル…ッ
「っ…」
聡さん、お願いっ…出て下さい…っっ
プルプルプルプルッ……プ…ッ
『……もしもし。』
「っ…!」
数週間振りに聞いた彼の声―。
もうそれだけで…泣きそうになる。
「さ……聡、さん…?」
『うん…知沙……久しぶりだね…?』
「はい…っ」
あぁダメ…。涙が溢れそう…。
「あのっ…聡さん…」
『ん…?』
「私……聡さんに…聞きたいこと、が……あるんです…」
『うん……何?』
「聡さんと早川さんって……昔、付き合っていたんですか…?」
『あぁ……うん。…瞳から聞いたの?』
「はい…」
やっぱり…これは本当なんだ…。
「じゃあ何で…私に言ってくれなかったんですか…?元カノだと…。」
『それは……正直、言おうかどうか迷ったんだ…。
瞳は今、知沙の先輩なんだろ…?同じ職場に、そんな人がいるって知ったら…
知沙が今後、瞳とやりにくくなるんじゃないかな?って思ってしまって…。
だけど…言わなかったことは謝る。本当にごめん…』
聡さんは…ちゃんと私のことを思ってくれてたんだ…。
私が早川さんと…仕事がやりにくくならないように…。